読み込み中の一言
コチョン「ローディング(読み込み)うぜーって思った?少しくらいゆとり持っても良くない?」
カエデ「日々が忙しいほど息抜きも重要なんだ、それを甘く見ないように」

おでん屋台The・CAT その七

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Relation6 卵と大根

また。

またここに来ちゃったけど。

今日は言いたいことがあって。

「ネコさん……」

「おや、このあいだの、いらっしゃい」

「あの、おみやげのあれ、ごちそうさま……」

「んー気にしないで、手伝ってもらったんだし……」

――何なら今日も手伝ってく?

そばの橋のように目を細め、なだらかなアーチにして、けらけら笑っていた。

なんとなく、それも悪くないって思えてくる。

……いやいや、今日はそんなんじゃなくって。

「前さ、おでんの作り方まで教えてくれたじゃん、独り言みたいにしてさ」

「そうだっけ、あんまり覚えてないな」

「……んで、やってみたんだよね」

「そ、どうだった?」

「パパ、美味いって喜んでた」

「そう、良かったね」

木棚の引き出しから削り節を両手でひとつかみ。

大きめの出汁パックに入れて鍋底にそっと沈める。

今更だけどその身体でよく器用にやるなって。

ついつい感心してしまう。

「それでさ、んと、ネコ……さんのおかげっていうか」

目をまっすぐ見ようと思ったけど、ちょっとうつむき加減になっちゃう。

「ありがとね……」

「はいはい、とりあえず座ったら?」

――。

前にパパがここのおでんを持ち帰って、2人で食べたあの夜から。

明らかに会話が増えた。

「うんうんっ、順序もオーケー、使った調味料もそれでイイよ」

「ホント?良かった」

「美味しいっていったんでしょ?それが何よりの証明だと思うよ」

確かにそれは変化の決定打だったかもしれない。

どっちにしても、ここのおかげ……ってことになるか。

「めんつゆ足したってのは良いね。家じゃ屋台の味出すのに時間かかるから」

「それ思い付きだったけど、昔ママがおでんの時使ってたの」

「じゃお母さんに感謝だね」

そう、誰かにきちんと感謝を伝えるってこと自体が、多分さっきが初めて。

子供の時の純粋な「ありがとう」とはちがう、少しだけ大人になりかけた人間の感謝。

一つはっきり分かったことは。

謝罪より感謝の方が今の自分にとって難しいということ。

その証拠にまだ少し心音が早い。

――でもこういう場合のお礼って「こういう」方が良いんだよね?

肉球印つきの木札のメニューを一応眺めてみる。

頼むものはもう決めてあるのに、とてもわざとらしい。

「大根と、卵ください」

「はいよっ……今日はちゃんとお客さんだね」

薄茶に染まった2つの具が、たっぷりの出汁と一緒に皿へと流れ込む。

コトッ。

静かに置かれたそれからはほわんと湯気がたって、鼻先をなでていく。

相変わらずいい匂い――。

って、私ここ来るのまだ2度目。

常連ぶっちゃった。

もう少し大人になったらそういう感覚なのかな?

「いただきます」

はふっ。

もっもっ。

期待以上に美味しい。

……うん、大根も卵もやっぱ私の作ったのとまったくちがう。

かなわないや。

当たりまえか。

このネコ、これが仕事なんだし。

「あっ、と……ネコさん」

「ん?」

「……多分、メス……いや女の子だよね?」

「そうだけど」

前帰る時に思った些細な疑問を今更ぶつけてみる。

「そういえばちょっと前、キミと同じく一発で気付いてくれたお客さんもいたっけな」

握った手を顎先にとんとん当てて、何かを思い出しているようだった。

「しぐさ……はネコだけど、言い方とか目とか、同じ女って感じがして」

うん、すっごい変なこといってるな私。

でもそういう感じってしかいえないし。

「分かってくれるのは地味にうれしいもんだよ」

「んじゃ、店員さんじゃないか……こういうとこだから、女将……ネコさん」

「それも偶然にしちゃ上出来」

「へっ、なにが?」

「ボクってそれで通ってるんだよね」

ボクって一人称は今さらに少し変だと思ったけど、メスってことは確かみたい。

良かった。

この場合の良かったっていうのが自分でも奇妙に思えた。

「そう呼んでくれてけっこうだよ」

「じゃ女将ネコさん、ごちそうさま、私これで」

「もう帰るの?まあいっか、なんとなく先急いでそうだったし」

「そうなの、今晩ね、パパとご飯食べに行くの」

「じゃ、後から2人そろっておいでよ……なんてね」

おたまを上向きに軽く振って「へへ」と笑いかける。

ノリはメスっていうより、少し子供っぽくもある。

「親子水入らず、こういう屋台じゃ出せないもんのとこ行くんでしょ」

「レストラン?それともお寿司屋?」

「って聞くのは野暮か」

「まあ、ごゆっくり」

「うん。でもね、きっとまた来るから」

目を伏せてクスりと笑う女将ネコ。

「きっとまた……か。うん、いつかまたね」

今度は急に大人びた感じ。

何かを察するような雰囲気を見せるあたりは、やっぱりどこか謎めいている。

帰りしな、屋台の外で。

今度はちゃんと向き合って、手を振り合う。

「またね!」

「いってらっしゃい!」

思い切ってここに来て正解だったと。

今朝、少し迷っていた自分に伝えられたらどれだけ良かったか。

今度はホントに2人でこよっかな。

何歩目かで振り返る。

屋台と石のトンネル橋、その後ろのレトロな街並み。

まるで昔の映画のワンシーンから切り取られた一枚絵のように思えた。

あ、まだ手振ってる。

私もちゃんと振り返す。

前に会った時は特に思わなかったけど、今はあの割烹着姿がさまになってる感じ。

そっちを向いてるのに後ろ髪を引かれるって表現は変かも。

でも、帰らないと。

営業日誌 やっぱり王道の組み合わせ?

今日も今日とて。

……もう分かってるよ。

前よりも明るさがちょっぴり増したレモン色。

「ネコさん……」

「こないだの、いらっしゃい」

――。

大根と卵ってこれまた王道な組み合わせできたね。

でもキミとお父さん。

ちょうどいいじゃない。

大根はどの具ともケンカしない。

おでんの卵の味は主張が強い。

だから良いんだよね。

この組み合わせは。

んん?

なんか前の、別な時にも同じようなこと考えたような。

ま、いっか……。

とにかく大根と卵っておでんの代名詞って感じ。

それはそうと、あの娘にくっついたもう1つの色。

真っ白なやつ。

輪郭も前は朧げだったけど。

今回はほんのちょっとだけくっきりしてた。

でもまだまだ弱くて小さい。

あの色が何を意味するのか、あの子自身が分かった時。

はてさて。

でもそれはボクが気にすることでなし。

「どうするかは容易に決められる」

「肝心なのは後戻りしないこと」

これはボクの友達が……いつだったかな。

でもいつかいっていた言葉。

――さてと。

追加を下ごしらえしてっと……。

次のお話。

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