――ある日。
いつものようにカエデ宅へシレッと上がり込み、ダラー…………とくつろぐコチョン(猫)。
猫の、それもほかの生き物よりひと際優れているはずの警戒心はもはやゼロ。
いや、それどころかマイナス。
四肢を伸ばし、身体を重力に任せきった姿は、もはやスコ座りというより半液状化。
完全に「ここは自宅です」と、シルエットで語る、100点満点のくつろぎっぷりだった。
――妙に気取ったラノベ風出だし(筆者の思いつき文)は置いといて。
ねえ、カエデちゃん。
ヒマだからテレビ点けていい?
慣れない「ちゃん」づけをするな。
……いいぞ。
夕飯の支度手伝ってくれるならな。
えーメンドイ。
っていうか、カエデさ。
どうせテレビあっても、普段あんまり見てないでしょ。
だったら別に……
なんでもかんでもロハで済まそうとするな。
確かにあまり見ずとも「それ」の所有権は私にある。
あと、そうして一日中ダラーっとするのも考え物だぞ。
少しは身体を動かしたらどうだ?
へ??(なんだろ、今の変な感じ……)
でも、ボクって基本ネコだし、ダラーっとするのがデフォっていうか。
ってかイイじゃん、別にタダ見させてくれたって(いつもはOKなのになんで今回に限って)
ケチク〇くノ一……(ボソッ)
なにかいったか?
あ、なんでもないっす。
ならば良し。
夕飯もなし、テレビもなしはイヤだろう?
……分かったよ、手伝うよ。
(それはそうと、なんか聞きなれない言葉があったような……)
しぶしぶ了承するコチョン。
カエデの言葉に少し違和感を抱きつつもテレビを点け、チャンネルを回しはじめる。
節約志向には痛い値段の食レポ、人気予報士のトークがウリの天気予報、おおげさリアクションの方が印象に残る通販番組。
ボタン一つでころころ変わる作り物の風景。
ふいに目に留まったのは。
――俳優1「……それで、用件は?」
俳優2「頼む!オレを、オレを海外に逃がしてくれ!」
お、昼ドラ。
まさにこの時間は主夫&主婦のくつろぎタイムですなー。
誰に言ってるんだ……
――俳優1「わかった、そのかわりロハってワケにもいかねえな。かつて世話になったアンタの頼みであろうと――」
アレ?
さっきカエデもいってたけど。
……ね、ね。
なんだ?
ロハってどういう……
タダって意味だぞ。
へ、なんで??
全然ちがう言葉じゃん。
いや、それよりサラッといっちゃった!
早くない?
今までの流れだと、もうちょっと引っ張ってから……
今日日、結論を引っ張ると読者が離脱しやすいらしいし。
たまにはズバッと答えからいくのも良いだろう。
この後、解説もちゃんと用意しているから心配するな。
――俳優1「そのとおりだ、あとはオレが他の連中に説明しておいてやるよ」
ドラマとリンクしてるし。
只の字を横一文字にバサッとやる
漢字の「只」を上下に分解すると、カタカナのロ・ハになる。
「只」とはいわず、ロハの言い回しでタダの意を表現した、すなわち俗語的な言葉。
ろ-は (名)
只の字を分かてば、ロとハとになるよりいふ
代金を要せざること。ただになること。
上田万年, 松井簡治 共著『大日本国語辞典』卷五,富山房,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1870727 (参照 2025-08-28)※943p
昭和初期に刊行された辞典にも記載があることから、少なくとも近年生まれた言葉ではないことが分かる。
ただ現時点での筆者調べでは、ロハがいつから使われはじめた言葉なのかまでは、分からなかった。
ともあれ、ロハはタダという意味に初見で気付いた方はスゴイと思う。(元の漢字を知らないと答えにたどりつけないはずなので)
ロハ台
ロハを使った別の言葉だが、意味は分かるか?
タダの台ってことだよね……。
タダで使える台……。
あ!
分かったか?
では、答えを。
すべり台!
何回すべってもタダだし。
あ、それとサッカ台とか。
スーパーで買ったものを袋詰めするとこね。
2つとも不正解。
答えはベンチらしいぞ。
公共のもので、確かに誰でもタダで座れるからな。
参考→レファレンス共同データベース https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000325413
すべり台だってそうじゃん。
あれはすべって遊ぶのが目的の遊具であって、座るものじゃないだろう(粘るな……)
それはそうと、個人的には台というより「ロハ椅子」で良いように思えたが、そこにツッコむのは少々無粋だな。
「只」が使われる熟語
「只管」
これは読めるか?コチョンどの。
タダカン!
(勢いからして、まともに考える気ないな)
「ひたすら」だ。
けっこう難しい系の読みだね。
漢検とかにも出てきそう。
ほかにも「只管打坐(しかんたざ)」という、雑念を捨て、ただ「ひたすら」に座禅を組むといった禅宗の考え方(教え)がある。
仏教でも使われている言葉なんだな。
けっこう脱線してってない?
元々ロハの意味だけ分かれば良かったんじゃ?
それだけだと話がすぐ終わってしまうからな。
ついでの豆知識としていっておいた。
そういうことー。
オチ
話してるうちに時間すぎちゃったね。
さっきのドラマ、とっくに終わっちゃってるし。
私たちがただドラマを見ているだけの話なら、あちらの方でやった方がいいだろう。
さて、ロハについてはこんなところだが、昨今あまり耳にするような言葉ではないな。
日常会話で聴いたらそれこそレアだと思うぞ。
死語みたいなもんなんじゃない?
シースー、シーメー、ギロッポンみたいな。
それとはちがくないか?
あ、シーメーで思い出した。
夕飯の支度手伝ってくれ。
……忘れたとはいわせないぞ?
えーっと、やっぱロハ(ただ働き)で?
ロハじゃない。
テレビ使わせる代わりと約束しただろう?
話してるあいだ、ロクすっぽ見れて無かったんだけど。
それでも使ったことになるワケ?
なる。
物理的に電源は入れてたからな。
使ったことに変わりない。
観念して台所にくるように。
はいはい、今いくったら(なんか理屈がメチャクチャなような)
クスッ……
本人は気付かないだろうが、私にとっての「ロハ」になっているんだな、コレが。
あまり使わずなテレビ視聴権を条件に、労せず食事の支度を手伝わせることができたわけだし。
たまにはこういうズルもありということだ(コチョンどのの運動不足解消にもなるしな)
了。
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