Special Relation スペアリブ
居た。
屋台を切り盛りしている。
そう知らせにはあったが。
どうにも本当だったらしい。
「一人だ」
「どうぞー!いらっし……」
何だ、そんなに目をまん丸くして。
まあ、無理もない、か。
「久しぶりだな」
「びっくりしたなぁ、もう」
――我々が知り合ったのは、もう何年前になるか。
かつては長い時間を共に過ごした。
寝食も外出も、数えきれないほど共にした。
だが。
仕事がにわかに忙しくなってから、顔を合わせる機会が段々と少なくなった。
そしてこの屋台の主、今、目の前で満面の笑顔をたたえるネコ……友人も。
ある日を境にぱったり姿を見せなくなり。
それっきりになった。
――2日前のことだった。
仕事がひと段落した幾度目か、住まいへと帰った時のこと。
それがあった。
郵便受けへと無造作に詰め込まれた広告チラシに紛れる一通の手紙。
差出人の名は……。
目に入った瞬間、頭の中がより鮮明になった。
いつぶりかの友人による急な便り。
居間の座布団を雑にほろい。
腰を落ちつけた。
次に息を深く往復させ、いよいよ心して読んだ。
(やっほ!元気?)
(色々あっておでんの屋台をやってます)
(キミならそうかからずに見つけてくれそうだから、営業場所はあえて教えません)
(へへー)
……末筆代わりに肉球で朱判が押されていた。
短い上に経緯の一切が省かれた文。
刹那の思考停止。
…………久しぶりの便りがこれか?
私は良い意味で脱力した。
――「嘘じゃなかったんだな」
「ひっでー、疑ってたの?」
「少しな」
「もう!」
久しぶりのやり取り。
鏡を見ずとも顔がほころんでいるのが分かる。
「そういえばおでん屋だったな」
「そうだよ、なんか注文してよ!」
おたまを振り回すな。
汁が飛ぶだろうに。
……木札の品書き、か(この際、下に書かれた肉球の印は見流す)
古風な感じが好ましい。
「1番自信のある種をもらおうか」
「……なんとなくそういう気がしたよ」
――コトッ。
「ってなわけで、はい!」
「今日のイチオシ」
「豚のスペアリブ!」
……固定観念を超えてきたな。
「トロトロで美味しいよ」
「大根も入っているが……」
「はじめてのお客へのサービス、お通しともいうね」
「なるほど、なら遠慮なくいただこう」
「あ、キミお酒呑むんだっけ?」
「付き合いで嗜む程度には……知っているだろう?」
「まね。ちょっと乾杯しない?再会を祝してさ」
「そうだな、一杯だけ呑もうか」
調理台の下から取り出された一升瓶。
封が開けられ、透明な液体がコップへと注がれる。
わずかだが果実のように爽やかな香りがする。
特級酒か。
「じゃ、かんぱーい」
「乾杯」
――。
「ね、どうだった?スペアリブと大根」
「結構なお手前だった」
「そこ、めっちゃ美味しいで良いんじゃない?」
「……肉は角煮のように仕上がっていた、こういうのもアリだな」
「大根の味加減、硬さもちょうどいい」
「どうしてもストレートに美味しいとはいわないんだね」
友人がジト目を向けながら皿を洗っている。
その目を見るのも久しぶりだ。
「ところでさ」
「ん?」
「キミの方はどうなの?その……お仕事は」
「日々こなしているぞ」
「いそがしいってこと?」
「ああ、だが少し余暇が出来てな、おかげで来られた」
「そっか、まぁボクもほぼ毎日ここだからなぁ」
友人は菜箸で屋根を指し示す。
「お互い、忙しなくなったもんだよね」
「悪いことではないがな」
以前と雰囲気が変わったか。
ネコだてらに屋台など切り盛りするようになったからか?
……いや、地は変わっていない。
ほら、そのだらしない大あくび。
2人で居た頃とまったく一緒だ。
「ふあーっ、お酒回っちゃったかも……ちょっぴり眠たいや」
「そもそもネコが飲酒というのもどうかと思うが」
「変わったんだよ、時代が」
「変な理屈を」
「……キミは変わらないね」
「自己管理には気を配っているからな」
「そういう意味じゃないんだけど、安心したよ」
こうしていると四六時中、いや三日三晩続いてしまいかねない。
そろそろ行かなくては。
「美味いおでんをごちそうさま。とりあえずこれで、な」
「もういっちゃうの?」
「ほかの客が来たら邪魔になるだろう」
残念そうなその目。
そうだった。
弱いんだ。
私はコレに。
「あ、うん、まあ、ほら……私の家知ってるだろう?」
「うん……」
「またいつでも来るといい」
「でも、忙しいんでしょ?」
「ってボクもそれなりに、だけど」
「……今なら半月に一度は帰る」
「住まいをもぬけの殻にするわけにはいかないからな」
「もし不在でも、いつ戻るか書置きしておくから……」
いや。
それだと無駄足を踏ませてしまう。
というより、そんな簡単なことにも気づかないとは。
ちょっとばかり浮ついているな。
「……やはり直接会いに来る方が良いだろうか?」
「うーん、そっちの方が行き違いもないだろうけど」
「いいよ」
「やっぱりボクがいきなり尋ねていく」
微笑む小さな友人。
「会えたらラッキー」
「そうじゃなかったら、アンラッキー」
「また出直すよ」
「示し合わせない方が、今のボクたちにはちょうど良いって気しない?」
「……そうかもな」
断言はできないものの、それも悪くない。
会おうと思えばいつでも会えるのだから。
行くか。
「あ、ねえ!」
「うん?」
なんだ、その大真面目な顔は。
「お代払ってないよ」
これはしたり。
「すまん。私としたことが」
そんなにけらけら笑うな。
失念していただけだ。
再会に浮かれていたせいで。
「スペアリブと酒の分、これでいいだろうか?」
「ひいふうみー、お酒はボクのおごりにしとくからこれだけでいいよ」
「大根はさっきいったとおりサービスだかんね」
抜け目のなさも相変わらずか。
余った小銭を手渡してくる。
……お、どうした?
ついでに手など握ってきて。
「ね、キミがたくさん教えてくれたり、なんとなく言ったりしてた言葉をさ」
「ここにきたお客さんにも教えたりとか、自分でつぶやいたりとかしたの」
「ありがとね」
「多分、格言だよ。どれも」
先ほどからスズメが二羽、屋台の上で遊んでいたかと思えば。
それこそ示し合わせたように、仲良く飛び去っていった。
……ちょっと出来過ぎじゃないか?
「そんなにイイコトばかりいってたか?」
「3割くらいはね」
口のへらないやつ。
「……今度こそ、またな」
「うん!」
「その割烹着と三角巾、似合っているな」
「でしょー?」
ほかに言葉はいらないか。
どうせまた会う。
だから振り向かない。
だが手だけ、そっと上げておこう。
きっと見えていないだろうが、な。
営業日誌 今日は特別
今日も今日とて。
ふふっ。
自分でいうのもなんだけど。
今日のボク、とってもウキウキしてた。
もし自分の色が見られたなら。
きっといい色だったと思う
……それにしても、意外と早く見つけてくれたなあ。
――。
特にいうことなし。
っていいたいとこだけど。
あのスペアリブ。
完全に思い付きなんだよね。
おばあちゃんならまず選ばない具材。
でもボクは前からイイって思ってたんだ。
友達もちゃんと美味しいっていってくれた。
だから、これはホントになった。
え?
友達の色?
しっかり紅葉したカエデってとこかな。
でも本物とちがって季節に左右されず、ずっと変わらない。
そして、すごく強くて。
優しい色。
ずっと、そのままでいてね。
あ、手だけふっとこうかな。
何なら後ろ向きにちょっぴりカッコつけて。
きっと見ていないだろうし、ね。
