Relation0 竹輪
(真っ暗いのこわい)
(寒いよ)
(誰か)
――おや、声が聞こえると思ったら、こんなところに。
イイ顔した黒猫だね、アンタ。
どれ。
こっちきな。
――。
(美味しい美味しい)
よっぽど腹すかしてたんだね。
(んまんま……)
そんなに美味しいかい?竹輪。
(コクコク)
そりゃあよかったね、ほらもう1つ食いな。
(んまんまんま……)
おやおや。
――。
(ね、おばあちゃん)
おツタさんって呼びな。
(やだ)
まったく、アンタのおばあちゃんじゃないんだよ、あたしゃ。
(ね、おばあちゃん)
やれやれ……なんだい?
(おばあちゃんっておでん屋さんなの?)
この屋台と鍋の形、見りゃあ分かるだろう。
(ボクね、おばあちゃんの作った竹輪もはんぺんもこんにゃくも大根も)
(えっとね、えっとね!ぜんぶ大好き!)
……そうかい。
(ボクにも作れるかなあ?)
ムリだろうね。
(どうして?)
だってアンタ、ネコじゃないか。
(でもボクね、おばあちゃんのおでん食べるとね)
(とってもあったかいの)
(ボクもあったかいの作って、誰かに食べてほしい!)
(んでね、みんなにあったかくなってほしいの)
……そうかい、じゃ明日からいつもより早めに起きてきな。
(教えてくれる!?)
何度もいわすんじゃないよ。
――。
(わーい、おばあちゃんの手作りだ!)
あんたの身体に合わせて仕立てるの大変だったよ。
でもま、見た目だけは様になってるね。
(あ、この割烹着と三角巾ってさ、おばあちゃんのと……)
そうだよ、あたしとおそろいさね。
(おばあちゃんとおそろい!)
あ、まちな!……これから仕込みやろうってのに、うかれてどこかいっちまったよ。
――。
……あんた、これ煮すぎだよ。
(へ?とりあえず煮込めば美味しくなるんじゃないの?)
バカ、火加減ってのはね。味や食感を大きく変えちまうんだよ。
大根なんてもうぐしゃぐしゃじゃないか。
けっこう仕込んだと思ったけど、これじゃまだまだ商売にはならないね。
やりなおしな。
(えーっ、せっかく火をつけるとこから全部やったのに!)
まだあるよ。昆布も浸しすぎ、鰹節も入れっぱなしじゃないか。
前に教えたとおりの手合いで取り出すんだよ。
(ちぇーっ……ちょっとこまかすぎるって……)
なんかいったかい?
(なんでもありませーん)
――。
(だから!あの客、すっごいいやな色してたんだって!)
歯ァむき出してシャーシャーいうのは、あからさますぎやしないかい。
(だって……ほとんどの人はそうじゃないのに、あの客、色そのまんまなヤツで)
(おばあちゃんのおでんにすごいケチつけた)
(こんなにおいしいのに)
……いいかい、来る客は選べないんだ。
今日来た客が満足しなかったなら、それがこのおでんの今日の姿。
(いってることがわかんないんだけど……)
今は分からなくっていい。
ま、あんたがおん出さなかったら、代わりに私がいってやったろうけど。
文句言うならよその店にいきやがれってんだ!
ってね……。
(なーんだ、やっぱりおばあちゃんもそう思ってたんじゃん)
アレは味うんぬんよりも虫の居所が悪かっただけさね。
ツラ見りゃ大体分かる。
ただそういう手合いも稀に来るってことを覚えておくといい。
さっきのはアンタもいい経験になっただろうさ。
それよりも。
(??)
アンタは人の気持ちや特徴がツラじゃなくて色で分かるのかい?
(……全部は分からないけど、見たまんま)
(そのとおりの人だったりするの)
……前から変わったネコだとは思ってたけど。
そういうもんを持ってるとはね。
(おばあちゃんもボクを気持ち悪いって思う?)
まさか、たいしたもんだよ。
(捨てたりしない?)
するもんか。
まあアレだね。
こっぱずかしいから、色とやらで察しな。
(おばあちゃん!大好きー!!)
おっと……まったくこの甘えたれは。
(えへへー)
ところでアンタの目から見てわたしはどういう色してんだい?
(おばあちゃんはね……とってもね)
うん?
(えへー!おばあちゃん大好きー!!)
質問に答えてないじゃないか……。
――。
(おばあちゃん!いやだよ!)
(目を開けて……ねえ、お願いだから!)
(独りぼっちにしないでよ!)
(えーんえーん!!)
…………勝手にころすんじゃないよ。
まだ、大丈夫さ。
いいかい、あの屋台は……。
必要なことは一通り仕込んだ。
なあに、アンタなら大丈夫。
…………。
――「あれ?」
「ボクいつのまにうたた寝しちゃってたんだろ」
「あっ、火かけっぱなし!」
「やば!」
――。
「ふう、あやうく煮すぎるトコだった」
「……なんか昨日のことみたいだったな」
「うーん!」
背伸び背伸びっと。
「にしても」
(勝手にころすんじゃないよ)
「……か」
「えへへっ」

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