コチョンどの。
魚市場で新鮮なホヤを買ってきたんだが……
いらない。
おや、強めの即答。
しかもまだ話の途中なのに。
どうせ「食べるか?」とでもいおうとしたんでしょ。
だいたいボクは「ソレ」を食べ物なんて思っていないし。
海のパイナップルとかいわれてるけど、なんかさ……。
魔獣の卵みたいじゃない(ゴツゴツ具合とか)。
もったいない話だな。
栄養(鉄分やタウリン)も豊富だし、ちょうど今が旬(夏)だし。
旬のものを食べると良いというのは、昔からいわれていることなんだがな。
やだ。
ぜったいにやだ。
カエデが1人で食べればいいじゃん。人(猫)を巻き込まないでよ。
ところがそうはいかない。
なぜなら今回の話は、ホヤを調理して食べるまでをワンセットとしたものだからな。
だから拒否権はないものと思ってもらいたい。
そんなメタな都合しらないよ!
勝手にやっ……
さ、筆者どの。
この勢いのまま、とりあえずホヤ自体の説明から入ってくれ。
コチョンどのは私が今から台所まで引っ張っていくから。
あ、ちょっと!カエデ!
手、引っ張らないでよ!もげるって!
動物虐待!
アレーッ!
実はヒトの遠い親戚

こんな見た目なので、以前までの筆者は特殊な貝類か、ナマコの仲間くらいにしか思っていなかったが……。
実はこのホヤたち、我々ヒトも属する「脊索動物⦅せきさくどうぶつ⦆」の一種に分類されている。
正確には「脊索動物門・尾索動物亜門・ホヤ綱」……ということだが、細かい分類法はともかく。
要するにホヤは、れっきとした動物で、ヒトと共通の祖先をもつ遠い親戚という意外性バツグンな生物。
幼体時はオタマジャクシのような見た目をしており、泳ぎ回って「よし!ここで育ったろ!」というベスポジの岩場を見付けたら、そこに固着して育ち、上の画像のような生体になっていく。
なお漢字では海鞘、または保夜と書く。
〇豆知識
ホヤは幼体(赤ちゃん)の時にだけ尾がある。そしてこの尾の部分に脊索を持つため、脊索動物に分類されている(成体になると尾も脊索も消失する)。
なお脊索とは、弾力性があり背骨のように体を支える役割を持った組織で、脊椎動物の成長とともに背骨へと置き換えられる。この過程は我々人間も同じ。
むき方……の前フリ
ホヤはな、食べられる部分が殻の中にあるから、まずは殻をむかなくてはならない。
手順さえ覚えれば簡単だから教えてやろう。
いや、ボクは別に覚えたくないし……っていうか、こんなグロいの触りたくないし。
キッチンまで無理やり連れてこられた今ですら、抵抗の意思ははっきり表示するからね。
コチョンどのに限らず、覚えておけばどこかで役立つ時がもしかしたらあるかもしれないだろう?
無用の用。この世に役立たないものなどないということだ。
いきなりそんな高尚なこといったってだね……
まあいいから、とりあえずやってみろ。
え?やっぱりボクがやんの!?
カエデじゃないの!?
そうだ、習うより慣れろだ。
なんのためにわざわざ台所まで連れてきたと思っている?
ひえーっ!(筆者がホヤの話なんて作ろうとしたせいだー!)
いやがるコチョンどのを尻目に、私から一言付け加えると、ホヤの旬は夏季の5~8月頃で、北海道や東北、とりわけ宮城県三陸のものが有名だぞ。
北海道ではアカボヤ、宮城の方ではマボヤがおもに食べられているようだな。
むき方
……の前に、見てくれている人に一言断わっておくが、ここからの内容はあくまで素人が行ってのものということを、あらかじめ了承しておいてほしい。
もし本格的にプロのやり方を覚えたいということであれば、専門のサイトを見ることをおススメしたいが……。
せっかく来てくれたんだから、暇つぶしにでも見ていってくれると嬉しいんだがな。
そんなこというなら、はなからこの話はなかったことに……
さて、必要な調理器具は包丁だけだが、キッチンバサミがあればもっと良いな。
とりあえずここでは、キッチンバサミありきの方法でやっていくとしようか。
エプロンと炊事用の手袋はちゃんとつけたか?
どーしてもやらせるんだね。
準備は良いよ、ばっちこーい(もう観念したよ……)
よし。
まずは、ホヤの突起部分を見てほしい。


うわー……近くでみるとこれまたエグイね。
んで、この突起がなんだっての?
左右の画像を見比べると、突起の一部がそれぞれ+と-の形になっているだろう?
-は水や排せつ物が出るところ、+は水を吸いあげるところなんだが、この部分を2つとも包丁で切り落とすんだ。
そこそこ堅いから気をつけてな?
うっかり手を切るなよ。
こ、こんな感じかな?(やたらごつごつしてるのなんかムカつく)


そうそう、上手いぞ!ちなみに黄色く見えるのが身の部分だからな。
切り落としたら、次はホヤの中の水を抜くんだ。
ホヤを手に持ち、しぼるようにするとチャーッと出てくるからな。ついでにおおまかな排せつ物もここで出しておくといい。
流し(シンク)の中にボウルなどを置いて、そこにまとめて出すといいぞ。
けっしてまな板の上ではやるなよ。中の水はそこそこ勢いよく出てくるし、方向をまちがうと身体や周りにかかってしまうからな……って。
オイ。
おそいよー!
ペッペッ!
塩辛いし、なんか黒っぽい変なのも、うじゃーって出てくるし!
なにこれー!
……そのうじゃーが排せつ物だ。
今ふいてやるからジッとしてろ。
(ここの画像を撮り忘れたのがかえって幸いだったな……絵面的に良いものではないし)
アクシデントのためしばらく中断……
さ、気を取り直して続きだ。
水は大体抜けたと思うから、今度は切り落とした+側の方からキッチンバサミを入れて、根本をめがけて殻を切っていくんだ。
お、意外とジャギジャギ切れるね(これは気持ちいいかも)。

だろう?
殻の先端を落とすのは包丁がやり易いが、切り開くにはハサミを使った方が楽なんだ。
ハサミが進むところまで切りこんだら、手で殻を開くんだ。
やりづらかったら、方向を変えてほかにも切り込みを殻に入れると良いぞ。
とりあえず開いたけど……。
さっきもちょっと見えてたけど、この黄色いが身なんだよね?

そうだ。
ここから身だけはずずんだが、殻と身のあいだに指を入れていくと、意外と楽にはがれていくはずだぞ。
本当だ、けっこうキレイにはがれるもんだね(これも気持ちいいかも)。
よっと……コレでイイのかな?


今回は身ごと切り開いてしまったようだが、これでも問題はない(どうせ後から切るんだからな)。
はじめてにしては上出来だぞ。
あとは身の部分に残った排せつ物や、殻の一部(堅いやつ)ワタやエラも取りのぞくんだ。
どれがどれだか見分けがつきづらいだろうが、基本は黄色いところだけを残すようにすれば良いぞ。
うわーけっこう色々くっついてるもんだね。
ボクのやり方が悪かったのかな。
排せつ物は出し切っていないが、たいがいこんなものだし、やり方は問題ない。
さて、ある程度キレイに出来たら軽く水で洗い、適当な大きさに切るんだ。
そうそう、洗いすぎるとせっかくの風味が飛んでしまうからな。
水でサッとすすぐようにするといいぞ。

洗って身も切ったよー。
あんまりキレイにならなかったけど。
いやいや、よくここまで頑張ったな(意外と素直にやってくれたものだ)。
お疲れ様。
とりあえず身は皿に盛って、冷蔵庫で冷やしておこうな。
終わってみれば確かに簡単だったけど、苦手な人は自分じゃ出来ないだろうね(ボクは乗り越えたけど)。
どうしてもというなら、買った店で殻だけはずしてくれることもある。
ちゃんとした魚屋ならまずやってくれるはずだぞ。
スーパーなら、すでに下処理済みのものも売られていることもあるな(手間がかからないぶん、殻付きより割高だが)。
えーっ、なら最初から……
今回は自分でやるということが前提だからな。
それに結果はちゃんと出来たんだから、ここは誇っておいていいと思うぞ。
あら、そう?
ま、イヤイヤながらであろうと、何でも器用に出来てしまうんだな~ボクって。
切り替えが早くてなにより。
食べ方(ホヤ酢が定番中の定番)

ねえ、ここまでは良いけど。
そもそもどうやってたべんの?コイツ。
刺身のようにワサビと醤油で食べても良いんだが、※三杯酢とあえて食べるのがおススメだぞ。
俗にいうホヤ酢というやつだが、頑張ってむいたご褒美にさっそく作ってやろうな。
※カエデ「三杯酢は酢、砂糖(みりん)、醤油を合わせ、よく混ぜれば完成だ。それぞれの分量は味見しながら自分の好みに近づけていけば良いが、最初はすべて同量でやると失敗しないぞ」
なんか自分でこんなグロ生物さばいた分、ちょっぴり抵抗感じるなあ。
ねえ、どうせだったらコレだけじゃなくて、ほかのおかずも一緒に……あ、いっちまった。
1分後。
よし出来たぞ。
そのままいってみてくれ。
はやッ。
そっか、酢で和えてるだけだから、あまり手間かからないのか。
あ、千切りキュウリも入ってる。
ホヤと相性良いんだぞ。
ちょうど夏場(8月)だし、暑気払いにもうってつけだ。
さ、いってみろ。
分かったよー(ま、せっかく作ってくれたしね)
モグモグ……。
……むむっ?
どうだ?
意外と悪くない……かも。
だろう?
うん、好き嫌いはっきり分かれる系の味だと思うんだけど、ボクはイケる方だな。
ぐにゅぐにゅコリコリな独特の食感が楽しいし、ちょっと磯臭いけど、酢とキュウリのおかげで上手いことごまかされてるっていうか。
いや、逆にこのちょっぴりの磯臭さがクセになるっていうか……あと、ちょっと甘くなってくるこの感じってなんだろう?
これは三杯酢じゃなくて、ホヤ自体の甘みかな。
そうだ。わりと気に入ってくれたようだな。
ちなみにホヤを食べた後に水を飲むと、これも甘く感じられることがある。
ホヤ特有の甘みがそう思わせるんだな。
ついでだが、ホヤは塩味・甘味・苦味・酸味・うま味、この五味すべてを備えた珍しい食材でもあるんだぞ(唯一かもしれないな)。
すげーな、ホヤ。
今回はホヤ酢として食べてもらったが、唐揚げや天ぷらにして食べてもオツだぞ。
あと、途中でホヤの水を捨てたが「通」ともなると、この水でホヤを洗って、より風味を活かしたり、漬け汁として用いたりもするんだ(衛生面に気を使うなら、基本捨てた方が良いが……)。
オマケの殻遊び
カエデ、見て見て!
なんか岩系モンスターみたいじゃない?
四つ足で立ってるやつ。

コレ、さっきむいた殻か?
確かにそう見えないこともないが……(捨てたと思ったら、わざわざこんな細工してたのか)
別アングルのもあるよ!
こっちは斜め後ろ姿!
足とかボコボコしてて、気持ち悪いねーっ(キャッキャッ)

食べ物で遊ぶのは感心しないが、殻だから良いか……。
満足したら、ちゃんと捨てるようにな(まさかとっておいたりはしないだろうな……)
まとめ(むき方の手順のおさらい)
ホヤの下処理の手順を下へとまとめておいたぞ。
目の前の読者どのが手順を手っ取り早く知りたい場合は、ここだけ読んでもらっても良いくらいだ(それだとちょっぴり寂しいから、本文もちゃんと見てもらいたいがな)。
もし新鮮なホヤが手に入ったらチャレンジしてみるといい。
初心者でも慣れればカンタンに出来るようになるぞ(コチョンどのにも出来たのだし)。
〇準備
必要⇒包丁
あればなお良い⇒キッチンバサミ・ボウル・手袋・エプロン。
まな板ではホヤの水が飛び散るので、水を抜く時は排水口近くのシンク内で作業するとより安心。
①突起(+と-に見えるところ)を切り落とす
固いので安全のために手袋着用推奨。
包丁で慎重に切り落とす。
なお+は水を吸い上げる口、-は水や排せつ物の出口となっている。
②中の水&排せつ物を抜く
ホヤを軽く握ってしぼり、中の水や排せつ物(うじゃーって出てくる気持ち悪いやつ)をボウルに出す。
まな板上ではやらず、シンク内で行うと後片付けも楽。
ホヤ水や排せつ物を出す方向をまちがうと、本文内のコチョンのように大惨事を招くため、ちゃんと切り落としたところをボウルの中めがけて排出すること。
コチョン「うっさいな!結果的にちゃんとできたじゃん!」
カエデ「まあまあ……注意喚起というやつだ、そう怒るな」
③殻を切り開く
+側からキッチンバサミ(なければ包丁で、くれぐれもケガに注意!)で根本に向かって切り込みを入れ、殻を手で開く。
開きにくい時は切れ込みを追加するとスムーズ。
④身をはがす
殻と身の間に指をすすませ、黄色い身だけを取り出す(非常にむけやすいので、ある意味一番気持ちいい行程)。
ワタやエラなど食べられない部分は除去。
黄色く柔らかい部分だけを残すようにすると〇
⑤身を軽く洗う
水でサッと流すだけで十分。洗いすぎると風味が飛ぶので注意。
通になると、あらかじめとっておいたホヤ水で洗ったり、ホヤ水自体を漬け汁に使うという食べ方もする(衛生面を気にするなら水道水で洗った方が良い)。
⑥切って料理に使う
刺身やホヤ酢など好みに合わせた大きさで切る。
あまり細切りせず、適度な幅にすると独特な食感が楽しめる。
自ら調理したものを自ら食べるというのも、たまには良いだろう?
出来ればもっとボクが好きなもの(鳥の唐揚げとかハンバーグ)にしてほしかったけどね。
ま、コレもそんなに悪くなかっ……いやいや。
その手には乗らないよっ。
これで味占めて、今後はボクにも料理を作らせるのを当たり前にしようったって、そうはいかないんだからね!
そうか。
そういう考え方もありか、では今後もこういう風に……
ボクは食い専門!
この不動のポジを崩させようったってそうはいかないよっ。
さてもかたくなだな。
(目覚めとまではいかないが、自分で作って食べるのもまたひとしお、ということを理解する日は当分きそうにないな)
了。
参考資料
ほやほや学会「東北の海の幸『ほや』の魅力」https://www.fukko-hanro.jp/info/picts/info20181111.pdf 参照日:2025年08月25日
白山義久 「水族館へ行こう! 京都大学白浜水族館」紀伊民放 2008年2月19日 (5) https://www.seto.kyoto-u.ac.jp/shirahama_aqua/wp-content/uploads/2023/03/07newsp-07a32.pdf 参照日:2025年08月25日 ※頭から19行目までをおもに参考
※敬称は省略させていただきました
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