ある日、いつものようにカエデ宅にしれっと上がり込み、くつろぐコチョン。
ねえ、カエデ。
ヒマだからテレビ付けていい?(どうせカエデほとんど使ってないし)
良いぞ。
その代わり夕飯の支度手伝ってくれな。
それはメンドイ……
なんでもロハで済まそうとするな。
夕飯もなし、テレビもなし。
いやだろう?
へ??
まあ、そりゃ……分かったよ。
ちぇー……ん?
しぶしぶ了承するコチョン。
カエデの言葉にちょっとだけ違和感を抱きつつ、テレビを付け、チャンネルを回す。
――俳優1「……で、どうする気だ?」
俳優2「頼む!オレを海外に逃がしてくれ!」
お、昼ドラ。
この時間はまさしく主婦のくつろぎタイムって感じですなー。
誰に言ってるんだか……
――俳優1「……いいぜ、そのかわりロハってワケにはいかねえな。たとえ兄弟分のアンタの頼みでもな」
アレ?さっきカエデもいってたけど……ね、ね。
なんだ?
カエデと俳優1さんがいってたロハってどういう……
タダって意味だぞ。
なんで??全然ちがう言葉じゃん。
それよりもう答えいっちゃった!
早くない?
こういうのってちょっと引っ張った方が良かったんじゃ……
大丈夫だ。
このあと解説がちゃんとあるからな。
――俳優1「ああ、あとはオレがみんなに説明しておいてやるよ」
ドラマのセリフと微妙に噛み合ってるし。
只を分解
漢字の「只」を上下に分解すると、カタカナのロ・ハになる。
「只」とはいわず、ロハの言い回しでタダの意を表現した、すなわち俗語。
ろ-は (名)
只の字を分かてば、ロとハとになるよりいふ
代金を要せざること。ただになること。
上田万年, 松井簡治 共著『大日本国語辞典』卷五,富山房,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1870727 (参照 2025-08-28)※943p
昭和初期に刊行された辞典にも記載があることから、少なくとも近年にできた言葉ではないことが分かる。
ただ現時点での筆者調べでは、ロハがいつから使われはじめた言葉なのかまでは、分からなかった。
ともあれ、ロハはタダという意味に初見で気付いた方はスゴイと思う(元の漢字を知らないと答えにたどりりつけないはずなので)。
ロハ台
ロハを使用した別の言葉だが、意味は分かるか?
タダの台ってことだよね……。
タダで使える台……。
あ!
お、分かったか?
答えをどうぞ。
すべり台!
何回すべっても無料じゃん。
はい、不正解。
答えはベンチらしいぞ。
公共のもので、確かに誰でもタダで座れるからな。
参考→レファレンス共同データベース https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000325413
公共のものならすべり台だってそうじゃん。
すべり台はすべって遊ぶのが目的の遊具であって、座るものじゃないだろう(粘るな……)
それはそうと、個人的には台というより「ロハ椅子」で良いように思えたが、そこにツッコむのは少々無粋かもな。
「只」が使われる熟語
「只管」
これは読めるか?コチョンどの。
タダカン!
(答える速さからして、まともに考える気がないな)
「ひたすら」だ。
けっこう難しい系の読みだね。
漢検とかにも出てきそう。
ほかにも「只管打坐(しかんたざ)」という、雑念を捨て、ただ「ひたすら」に座禅を組むといった禅宗の考え方(教え)があるんだ。
仏教上でも使われている言葉なんだな。
けっこう脱線してってない?
元々ロハの意味だけ分かれば良かったんじゃ?
それだけだと話がすぐ終わってしまうからな。
ついでの豆知識としていっておいた。
そういうことね。
オチ
なんか話してるうちに結構時間たっちゃってるね。
結局テレビなんてまともに見てないし。
ロハに関しての話はこんなものだが、昨今あまり耳にする言葉ではなくなったようだな。
日常会話で聴いたらそれこそレアだと思うぞ。
死語みたいなもんなんじゃない?
シースーとかギロッポンみたいな(ちょっとちがうかもだけど)。
あ、シースーで思い出した。
夕飯の支度手伝ってくれ。
……忘れたとはいわせないぞ?
ロハで?
テレビ使う代わりの条件だっただろう?
ロハじゃない。
話してるせいで、ロクすっぽ見れて無かったんだけど。
それでも使ったことになるの?
なる。
物理的にも電源入れてたからな。
さ、これ以上はオチが思い付かないから、さっさと台所にくるように。
はいはい、今いくったら。
クスッ……コチョンどのは気付いていないが、私にとっては「ロハ」になっているんだな、コレが。
見たい番組もないテレビの使用権をダシに、労せず食事の支度を手伝わせることができたんだからな。
たまにはこういうズルもいいだろう。
了。
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