ね、自分の彼氏がイケメンだったら、やっぱジマンになるのかな？
うーん…そうか？
見てくれなど忍びならどうとでも出来るが。
変装に長けている者なら、体型まで変えてしまえるからな。
忍者の基準で考えないでよ（って、それ人間か？）。
カッコ良い人が彼氏とか旦那さんだったら、自分のステータスになるって考え方もあるかなって話。
言葉に出さなくても「私の彼氏or旦那カッコ良いでしょ？」って優越感にひたって、他の人にもマウントとれるみたいな。
（どこぞの女性週刊誌でも読んだな……）
顔や見た目で恋に落ちるという感覚がそもそも分からない。
大体そんなもの、死んで骨になれば誰でも同じではないのか。
恋仲となるのに大切なのは、何よりその者の性格や心根だと思うがな。
身もフタもないこと言うね。
でも見た目が良いから好きになることってあるし、そこから相手のほかの面もどんどん好きになっていくこともあると思うんだ。
見た目からはじまる恋もあるのは、否定出来ないと思うんだけどな。
それで思い出したが、外見が原因で、とある女性から嫌われた戦国武将が居るんだが……。
えーそんな可哀想な人が居たの？
ちょっと聞いてみたいな！
相手はやっぱり面食いの女の子だったのかな？
戦国史ではかなり有名な姫君だ。
もっとも外見で嫌ったというのは※俗説らしいが。
それが直接の原因なのかは今でもはっきりしていないが、その姫と武将に関するある事件まで起こったんだぞ。
※俗説（ぞくせつ）→世の中で一般に行われる説
あ、ちょっとドロドロな話っぽい？
キラキラした男子に恋する少女マンガみたいなのとは、真逆の話が聞けそうだね。
そういう出来事があった程度に聞いて欲しいぞ。
千姫事件（坂崎出羽守事件）について
恋した姫に結婚の約束を破られたあげく、別のイケメン武将の方とくっつかれた何ともアンラッキーな戦国武将が居た。
その武将の名は坂崎直盛（さかざきなおもり）また彼が恋した姫の名は千姫（せんひめ）という。
そして直盛と姫にまつわる一連の騒動は千姫事件または坂崎出羽守事件と呼ばれ、直盛の顔の醜さに抵抗を感じた姫が婚姻の約束を破ったことによる姫強奪騒動とされている。
ちなみに坂崎直盛とは、関ヶ原の戦いにおいて武勲を立て家康公から2万石を与えられた際、名を坂崎と改め出羽守（でわのかみ）とも称したれっきとした大名。
一方、千姫はかの徳川幕府2代将軍・秀忠（ひでただ）の娘。
さらに秀忠の妻であり浅井三姉妹（あざいさんしまい）の三女・江（ごう）を母に持つ由緒ありすぎる家柄の姫君なのだ。
面食いの姫にフラれて…
時は1615（慶長20）年5月、戦国最後の戦とされる大坂夏の陣のころ。
戦況は徳川が圧倒的優勢で天下統一までわずか。
豊臣方の本城である大阪城に、徳川の軍が今まさに攻め込もうという時だな。
夏の陣って戦国時代のクライマックスの戦いだよね！
真田幸村がものすごく活躍したやつだ！
戦国無双でも超カッコ良かったもんなー。
盛り上がっているところすまないが、今回は真田幸村とまったく関係ない話だからな。
さて家康公の孫でもある千姫は相手方の豊臣家二代目当主・秀頼公にすでに嫁いでいた。もちろんこの戦の時にも大阪城には姫が残ったままだな。
そこで家康公は攻め込む前に姫を城から助け出すよう家臣に命を下したんだ。さらに無事救い出せた者には姫と婚姻させると御触れをだした。
我こそはと名乗りを上げたのが武将・坂崎直盛だ。
もし救出に成功したら姫をもらえる上、将軍家と血縁関係になれるからな。直盛としても願ってもない好機だっただろう。
そして主の期待に応え、見事姫を助け出した。
直盛が負ったヤケドだが、火の手が回った大阪城での姫救出時についたのだとか。
命がけで助けてくれたなんて、なんか良いな～！
その後、崩れ落ちる城から男女2人で脱出か～。
理想的なのはヤバい状況を共に過ごした男女が結ばれやすい「吊り橋効果」みたいのもあって、2人が恋に落ちるっていうのを期待しちゃうよね。
と、思うだろう？
一応直盛による決死の救出もあって姫は徳川の元に無事戻れたとされるが、その後が問題なんだ。
あ、前置きがあったから分かっちゃったんだけど、姫が結婚を拒否したんだよね？
直盛のヤケド顔を見てひいちゃったから？
うむ。
直盛のヤケドを負った顔を見て、姫が失神したとまで言われている。
またヤケドが関係なく直盛の外見が元々醜かったから拒否したという話もあるな。
いずれにしろ婚姻は姫により反故（ほご）にされた。
あげく姫の正式な相手だが、若く容姿にも優れていたとされる本多忠刻（ほんだただとき）と決まった。
一説では姫が忠刻に一目ボレしたという話から婚姻が決まったという。
見た目で拒否られて、さらに別なイケメンに姫をとられちゃったってことか…。
なんかやるせないね。
現代でもフツーにありそう。
姫を嫁にもらえると思い込んでいた直盛は当然怒った。
ついには姫を強奪するべく、姫が乗った輿入れ（こしいれ）のカゴを襲撃する計画を立てた。
ここから一連の騒ぎが千姫事件と呼ばれるんだ。
坂崎出羽守事件とも呼ばれるようだが覚え方はどちらでも良いだろう。
ものすごい執念だね、ちょっと怖いかも。
激しい恋慕の末のことだろうな。
が、この計画は幕府に露見（バレていた）していたらしく、直盛の屋敷は徳川勢に取り囲まれてしまった。
結果、姫襲撃は未遂に終わるが裏では直盛の友とされる剣豪・柳生宗矩（やぎゅうむねのり）が動いていて、その説得によって阻止されたものと伝わっている。
宗矩は直盛が無謀であることを言い聞かせ、大人しく自害するようにすすめたんだ。
自害かあ…。
そりゃ相手は徳川って大物だし、姫を誘拐出来たとしても勝ち目ないよね。
本人にも先のことは分かっていたんだろうけど、よっぽどくやしかったのかな。
何となく直盛の気持ちが分かるような気はするよ。
ちなみに直盛と宗矩は剣の腕が双方互角ともいわれているんだ、新陰流で名をはせる柳生と渡り合える実力だから直盛も相当な腕なのだろう。
そういう背景からも考えられるのは、剣友であったかも知れん者が打ち首か、もしくは一介の雑兵に討ち取られることを宗矩は望んでいなかったのかもな。
ここからは直盛が大人しく切腹に応じたという話もあれば、説得がかなわず怒りのあまり自分の息子まで斬ったとか、家臣に寝首をかかれたという説まであるんだ。
いずれも結末が共通しているのは直盛はこの事件の際に亡くなり、坂崎家も断絶してしまったということだけらしい。
悲惨だなあ。
ねえ、それとここでの話って千姫が直盛に嫁ぐのを拒否ってイケメンに走ったって説で進めているんだよね？
んで直盛の狂気じみた恋心が自分の家まで滅ぼす結果になるなんてさ。
切ないけどすごい話だったな。
でも俗説なんでしょ？
そうらしい。
長い歴史上、事実が脚色されたり後付けされたりはよくある話で、この説もそういうものの1つという見方をするのが良いだろう。
伝言遊びのように段々と真実から遠ざかっていったのかもな。
少々蛇足だが、前夫の秀頼公を失って未亡人になったとはいえ、この時の千姫の年齢は19ほどと伝えられている。
一説では14だったともな。
一方で直盛は50を超えていたとされている。
言いたいことは分かるか？
お父さんと娘くらい年離れてるよね。
もしかして見た目とか関係なくて年齢の問題で結婚するのを拒んだとか？
でも年の差婚っていうのも珍しくないからなあ…。
だって豊臣秀吉と側室だった淀も30歳以上離れてたんだもんね。
コチョン殿が姫ならどちらを選ぶかということだ。
若く器量良しとされた忠刻か、命がけで自分を救ったが親ほど年が離れた直盛か。
直盛をもし選ぶのなら、それが計算や見た目で人を選んでいないということだ。
人はそれを絆と呼ぶっ！！
なんかキレイに終わらそうとしたね…。
でもなかなか難しいんじゃないかなあ、フツー自分と年近い相手の方が良いんじゃ。
あ、ボクだったら大切にしてくれそうな人だったらどっちでも良いかな。
もっともだ（意外だな、さっきの感じだと忠刻と即答すると思ったが）。
話を少し変えるが、武家や大名の恋愛結婚が珍しい時代だ。
当人たちの意図とはちがう婚姻も当たり前だっただろう。
しかしこの時代においても先ほど話に上がった秀吉公と、正妻のねねは恋愛結婚で結ばれたというぞ。
その話からも千姫が見た目で婚姻を破った説と同じく、政略結婚とは無縁な人間臭さは感じられるな。
実は見た目なんて関係なかった？
実はこの事件にはもう1つの展開説があって、そちらでは直盛の見た目などは全く関係なくなっているんだ。
と、いうよりもむしろこちらが真実、もしくはそれに近い話ではないかと私は思っている。
直盛による襲撃が未遂に終わるなどの流れは先ほどと同じだが、はじめに姫を大阪城から救ったのはそもそも直盛ではないらしい。
もうさっきとちがうね。
じゃあ誰がボーボーに燃えてる城から姫を助けたのさ？
夏の陣の際に城から姫を脱出させたのは、豊臣方の武将・大野治長（おおのはるなが）の手引きによるもので、姫脱出の際に護衛を務めたのは堀内氏久（ほりうちうじひさ）という武将らしい。
その後氏久は知り合いだった直盛の陣に姫を預け、そこから直盛が引き継いで徳川の元へ送り届けられたとされている。
また敵方だった氏久はその後、家康公に拝謁し、姫を送り届けた功績もあってか以後は徳川の元で働くことが許されたという。
ここからは先ほどと同じく、姫を救い出したものにこれを与える約束というのも家康公からはあったらしいが、この場合だと直盛は……。
姫を送っただけで救出してはいないよね。
さっきまでの武勇伝は何だって感じだよね。
そこで直盛が元々傍若無人（ぼうじゃくぶじん）な性格をしているというところに着目したい。
そして姫を徳川に送り届けたのだから助けたも同じというムリのある考え方が直盛の中にあったとする。
要するに姫をもらう気満々だったということだな。
そういう解釈をしてもおかしくない人格だったという説もあるんだぞ。
えー…。
そんな人なの？
すっげえワガママじゃん。
直盛がどう解釈しようが、結局婚姻の約束は姫自身の申し出ではなく、徳川家が破ったという話となるんだな。
この反故を姫の父の秀忠公か、祖父の家康公が行ったことかは正確には分からない。
あげく徳川は約束を反故にしただけではなく、姫の再婚相手としてどこぞの公家を選んでくるようにと直盛に命じたんだ。
姫を先々を思ってのことだろう。
すっげえ入り組んできたね…。
でも話が細かいから見てくれでフラれた説よりもちょっと信じられるかも。
それでそれで？
姫が公家ではなく忠刻と婚姻することとなるのは先の話と一緒だが、短いとはいえ姫と関わりを持った直盛へはその後一言の挨拶すらなかったらしい。
直盛からすれば自らどころか、わざわざ姫のために探してきた公家との縁談も破綻にされたワケだ。
そして先ほどの説と同じく姫への襲撃へと進むんだな。
そもそも姫への恋心というより、武士としての面目を台無しにされたから始まったこととされている。
また直盛の最後に関しては柳生宗矩の説得により自刃したというのが有力らしいがな。
なんだかなあ。
見た目で拒否られた上に別なイケメンに姫取られて直盛が怒っちゃったっていう方が面白かったけど。
そのヤケドやら顔が醜いやらの説については後付けの可能性があるのを、もう一度付け加えておこう。
裏付けるものがないのだから直盛や姫にとっては勝手に人格を決められたようなものだしな。
そういうことは避けねばなるまい。
もっとも当人たちに真実を聞いたなら話は別だが。
まっさかーそんなこと不可能じゃん。
そうだな、そうかも知れん。
ならば直盛が姫に好意を持っていたかどうかも、また姫がまことに直盛を嫌ったかどうかすらも結局は不確かなのだ。
騒ぎ自体は実際起こったことかも知れんが、人の心の内だけは当人のみぞ知るというやつだ。
もしかすると人心によるものではない、他の者の陰謀がかかわっている可能性もあるだろうか。
そしてこれ以上事件について私の口から何も言うまい。
なにさその思わせぶりな態度。
ひょっとして真相は本人たちから聞いてたり？
…さあ？
やめてよ、まるで見てきたかのように言うのはさ…。
子孫は生き残った？
お家断絶とは言ったが、実は事件の後、直盛の息子が先の柳生宗矩に引き取られたという話もあるんだ。
坂崎の子孫は生き残ったことを思わせるような救いのある話だな。
それがホントなら柳生宗矩って良い人だね！
友達の子供だけでも助けたんだ。
それにな、直盛の墓も現在まで残っているんだ。
島根県津和野の永明寺という場所に実在しているぞ。
直盛が自分の娘を嫁がせて義理の息子にした堀平吉（ほりへいきち）と、直盛から保護を受けた小野寺義道（おのでらよしみち）という武将によって建てられたと伝わっているんだ。
直盛の死から13年後のことだったらしい。
その2人って恩に報いたのかな。
直盛って姫がらみの事件を起こしたから、感情的で怒りっぽい性格なのかなって思ったけど、けっこう人望がある武将って感じもしてきたよ。
まとめ
①坂崎出羽守事件は戦国武将・坂崎直盛が計画した襲撃事件。徳川秀忠の娘・千姫が直盛との婚姻の約束を破ったため、そのことへの怒りによって起こした事件といわれている（俗説の可能性あり）
②別説では、姫の父である秀忠により婚姻を反故にされ、その後、仲介した公家と姫との婚姻すら破談となり、面目をつぶされたことによって事件に発展した
③俗説・別説の結末はともに、直盛の死とそのお家断絶を迎えるが、坂崎の血が絶えた訳ではなく、直盛の子が柳生宗矩に引き取られ、その後も子孫が続いたという説も存在する
女の子からしたら、好きでもない男の人に一方的に好意を寄せられていたら「怖っ」ってなるだろうね。
でも顔で嫌われたってのがホントなら、ちょっとやりきれないかな（ルッキズムの最たるもんだよなあ）。
姫は直盛が最後にどうなったか知っていたのかな？
当事者なのだし、耳に入らなかったとは考えづらいな。
と、なると自身も間接的に関与したこととして、哀れんだかどうかだ。
先だってのとおり当人のみ知ることだろう。
そういや姫が江の娘ってことはあの信長が大叔父さんってことだよね。
だって江姫って信長の妹、市（いち）が産んだ浅井三姉妹の1人でしょ。
魔王って呼ばれた信長に似て、意外とドライな面がありそうな気も。
そういう見方もあるだろうが、夏の陣で秀頼公と共に散った淀君（よどぎみ）も元は三姉妹の長女・茶々姫（ちゃちゃひめ）だ。
千姫からすると実の伯母（おば）で義理の母でもある人間を、最初の夫と同時に失っている。
千姫は面食いの姫君だった説を打ち立てられた一方で、過酷な運命にほんろうされた戦国の被害者でもあったのだろう。
……そう考えるとちょっぴり可哀そうかも。
でも新しいイケメンの旦那さんと再スタート出来たんだからまだ良いのかな。
ところが姫が30歳を迎える頃、忠刻も病にかかり世を去っているんだ。
その後の姫は剃髪して出家しているぞ。
天樹院と名乗ってな。
あちゃー、なかなか男運がないというのか……。
以前の夫であった秀頼公をも若くして失っているからな。
しかし、千姫にはまだまだその先の人生もあったのだ。
何でも70まで生きたという話だぞ。
若い頃は激動の人生を送ったことだし、おばあちゃんになってからは少しでも穏やかな日々を過ごしたのかな？
最後こそ病死と伝わっているが、天寿を全うできたと考えて良いだろう。
ところで、女とは母性にあふれる反面、男よりも現実主義なところがある。
比較的長年連れ添った忠刻や、一時でも夫婦であった秀頼公のことはともかく、一方的な恋慕の可能性があった直盛のことなど、姫自らの人生のため、幾年と経たずに記憶から消してしまった可能性はあるな。
キミ今回はすごく深いことを言うね…。
まあ女は上書き保存、男は別名で保存って言葉もあるしね。
女性は前向きにデータを更新していけるけど、男性はいつまでも過去のデータを捨てられず保存しておいたままっていう。
今はそんな考え方もあるのか？
思い出をデータに置き換えた、たとえ話だよ。
よくある話だけど、女の人は次の彼氏を見付けたらあっさり元カレのことを忘れる。
でも男の人は新しい彼女と付き合っても、元カノのことを未だに引きずってたり、比べたりするとかね。
性別による価値観のちがいというやつか。
だが、そういう考え方もあるという程度に留めるのが良いだろう。
読者殿たちがそういう決めつけで不快になったら申し訳ないからな。
だね、もし読者さんがこれで不快になっちゃったらごめんよ。
みんながそうじゃないことも解っているからさ。
あ、ちなみにさっき言ってた幾年経たなくても忘れるって話、まさかキミの体験？
でもカエデってそんな薄情な感じに思えないんだけどな。
そういう者を知っているというだけだ。
まさか姫本人に聞いたワケじゃないよね？
さっきもだけど、キミよくその時代に居たかのようにしゃべる時があるからさあ。
……想像に任せるぞ。
またまた設定ふくらませて終わりかい。
了。
参考資料
坂崎出羽守 (津和野ものがたり4) 著者・沖本常吉 出版者・津和野歴史シリーズ刊行会 出版年月日・1972
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