――ある日。
いつものようにカエデ宅にしれっと上がり込み、ダラーっとくつろぐコチョン。
ねえ、カエデ。
ヒマだからテレビ点けていい?
良いぞ。
その代わり、夕飯の支度手伝ってくれな。
それはメンドイ。
っていうか、カエデさ。
どうせテレビがあたって、普段あんまり見てないでしょ。
だったら別に……
なんでもかんでもロハで済まそうとするな。
あまり見ていないのは確かだが、テレビの所有権はあくまで私にあるんだからな。
それにそうやって一日中ダラーっとしているのも考え物だぞ。
少しは身体を動かしたらどうだ?
へ??(なんだろ、今の違和感……)
でもボクって基本ネコだから、ダラーっとするのがデフォっていうか。
それにいいじゃん、別にテレビくらいタダで見させてくれたって(いつもそうなのになんで今回に限って……)。
ケチんぼくノ一……(ボソッ)
ん?なにかいったか?
なんでもありませーん。
ならば良し。
夕飯もなしでテレビもなしはイヤだろう?
そりゃまあ……分かったよ、手伝うよ。
(それはそうと、なんか聞きなれない言葉があったような……)
しぶしぶ了承するコチョン。
カエデの言葉にちょっとだけ違和感を抱きつつ、テレビを点けてチャンネルを回す。
――俳優1「……それで、こちらに頼みたいことっていうのは?」
俳優2「頼む!オレを海外に逃がしてくれ!」
お、昼ドラ。
この時間はまさしく主婦のくつろぎタイムって感じですなー。
誰に言ってるんだか……
――俳優1「……いいだろう、そのかわりロハというワケにはいかない。かつて世話になったアンタの頼みでもな」
アレ?
さっきカエデもいってたけど……ね、ね。
なんだ?
ロハってどういう……
タダって意味だぞ。
なんで??全然ちがう言葉じゃん。
いや、それよりサラッと答えいっちゃった!
早くない?
今までの流れだと、もうちょっと引っ張ってから……
答えからズバッといくのも、度々あっていいことだぞ。
それに解説もこの後あるから心配ない。
――俳優1「ああ、あとはオレがみんなに説明しておいてやるよ」
ドラマのセリフと微妙に噛み合ってるし。
只を分解
漢字の「只」を上下に分解すると、カタカナのロ・ハになる。
「只」とはいわず、ロハの言い回しでタダの意を表現した、すなわち俗語。
ろ-は (名)
只の字を分かてば、ロとハとになるよりいふ
代金を要せざること。ただになること。
上田万年, 松井簡治 共著『大日本国語辞典』卷五,富山房,昭和16. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1870727 (参照 2025-08-28)※943p
昭和初期に刊行された辞典にも記載があることから、少なくとも近年生まれた言葉ではないことが分かる。
ただ現時点での筆者調べでは、ロハがいつから使われはじめた言葉なのかまでは、分からなかった。
ともあれ、ロハはタダという意味に初見で気付いた方はスゴイと思う(元の漢字を知らないと答えにたどりりつけないはずなので)。
ロハ台
ロハを使われた別の言葉だが、意味は分かるか?
タダの台ってことだよね……。
タダで使える台……。
あ!
お、分かったか?
では答えをどうぞ。
すべり台!
何回すべっても無料じゃん。
あ、それとサッカ台とか。
スーパーで買ったものを袋詰めするとこね。
2つとも不正解。
答えはベンチらしいぞ。
公共のもので、確かに誰でもタダで座れるからな。
参考→レファレンス共同データベース https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000325413
すべり台だってそうじゃん。
すべり台はすべって遊ぶのが目的の遊具であって、座るものじゃないだろう(粘るな……)
それはそうと、個人的には台というより「ロハ椅子」で良いように思えたが、そこにツッコむのは少々無粋かもな。
「只」が使われる熟語
「只管」
これは読めるか?コチョンどの。
タダカン!
(答える速さからして、まともに考える気がないな)
「ひたすら」だ。
けっこう難しい系の読みだね。
漢検とかにも出てきそう。
ほかにも「只管打坐(しかんたざ)」という、雑念を捨て、ただ「ひたすら」に座禅を組むといった禅宗の考え方(教え)があるんだ。
仏教上でも使われている言葉なんだな。
けっこう脱線してってない?
元々ロハの意味だけ分かれば良かったんじゃ?
それだけだと話がすぐ終わってしまうからな。
ついでの豆知識としていっておいた。
そういうことね。
オチ
なんか話してるうちに結構時間すぎちゃったね。
さっきのドラマ、もうとっくに終わっちゃってるし。
私たちがドラマを見ているだけになるなら、雑談コンテンツの方でやった方がいいだろう。
さて、ロハに関しての話はこんなものだが、昨今あまり耳にする言葉ではなくなったようだな。
日常会話で聴いたらそれこそレアだと思うぞ。
死語みたいなもんなんじゃない?
シースーとかギロッポンみたいな(ちょっとちがうかもだけど)。
あ、シースーで思い出した。
夕飯の支度手伝ってくれ。
……忘れたとはいわせないぞ?
えーっと、ロハ(ただ働き)で?
ロハじゃない。
テレビを使わせる代わりの条件だっただろう?
話してるあいだ、ロクすっぽ見れて無かったんだけど。
それでも使ったことになるワケ?
なる。
物理的にも電源は入れてたからな。それでも使ったことには変わりない。
さっさと台所にくるように。
はいはい、今いくったら(なんか理屈がメチャクチャなような)。
クスッ……コチョンどのは気付いていないが、私にとっては充分「ロハ」になっているんだな、コレが。
あまり使っていないテレビの使用権を条件に、労せず食事の支度を手伝わせることができるんだからな。
たまにはこういうズルもいいだろう(コチョンどのの運動不足解消にもなるしな)。
了。
コメント