……もしもし、誰だ?
あッ、じゃなかった……。
えっと、どちらさまでしょうか?
ふむふむ……ええ、はい、良いですよ。
そう、お伝えさせていただきます。
……ガチャン!
カエデんちに固定電話があったことも驚きだけど……。
今、典型的にダメなことやらかしたね(タメ口はキャラ性だから、スルーするけど)。
それさ、もしカエデが会社勤めしてて、そういう電話対応したら、多分注意されるよ。
ま、気持ちは分かるけどねー。
んあ?注意?
一体なんのことだ?
さて、カエデが何をまちがえてたか、仕事中の電話の話し方で、上司に注意された経験ありな筆者が解説よろー。
こういうのってちゃんとスマートに出来る人の話より、失敗経験ありな人の話の方がきっと共感される気がするし。
なんなら筆者の実体験の話も、後から盛り込んで良いよ!
「申し伝えておきます」がベターで確実

敬語の用法で失敗経験(今でも度々ある)のある私こと、筆者が話を引き継ぎます。
まずカエデの最後のセリフ「お伝えさせていただきます」がまちがい。
正しくは「申し伝えておきます」もしくは「申し伝えます」となる。
今話している相手をうやまう
まず、さっきの電話でのトークは、カエデが敬語を使っていたため、電話の相手を目上として考える。
そして相手側は、彼女に対して伝言を頼んだような状況だった。
ビジネスシーンでいうなら、これは客や取引先(電話の相手)から、自分(カエデ)の会社の誰かへと、伝言を頼まれたのと同じシチュエーションとなる。
したがってこのケースでは※謙譲語Ⅱの必殺技(よく使うという意味で)「申す」を使うのが正しい。
※謙譲語Ⅱとは、相手(敬う対象)に対して、自分の行為・行動などを、丁重に述べる敬語表現の1つ。
申すのほか、参る、いたすなどがある。
つまり、申し伝えておきます、申し伝えます、なら、伝言を頼んできた人にへりくだっているため、これが正しい言い方となる。
「お伝えさせていただきます」だと、伝言を頼んできた人じゃなく、伝言を伝える相手を敬っていることになるからNGなんだよね。
ほんっとややこしいよね、敬語って。
さらに細かく分解すると……
これまた、さっきの電話の会話でカエデが使った「させていただきます」という表現も、あのシチュエーション上では、本当は不適切。
この表現を使う時は、相手や第三者から許しや、断りをもらって自分が何かをする「許可」と、それを行ったことで、自分が何かしら得する「恩恵」の2つの条件をどのくらい満たすかにより、適切・不適切のケースに分かれる。
参考 「敬語おもしろ相談室 第三話「敬語のTPO~依頼の仕方~」【4】」 文化庁https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/chapter3/detail.html
――ツラツラと調べ書きしたが、これで「そうなんだ!」と一発で理解できるほど、筆者は頭が良くないので、自分でちゃんと理解するためにも「許可」と「恩恵」両方をしっかり満たした言葉例を、3つ書いておく。
①「先に食べさせていただきますね?」
〇 許可:相手に断っている
〇 恩恵:空腹が満たされる → 自分に得がある
②「眠いので、先に寝させていただきます」
〇 許可:相手に対して一言断っている形
〇 恩恵:眠気が取れる・体が休まる→自分に得がある
③「ホーッホッホッ!次はワタクシが、あなたのお相手をさせていただいても?」
△許可:相手も望んだ場合は成立
△恩恵:自分が戦いたいだけなら〇
――3つめの例は、思い付きもいいとこなので、気にしないでいただきたい。
さて、ここでさっきの電話の話に戻って、この「許可」と「恩恵」をあてはめると、すでに伝言を依頼されたフェーズになっており、あらためて許可をもらう必要がないため「許可」は×。
伝言を引き受けたことで、カエデが何か得するワケでもなさそうなため「恩恵」も×。
つまり許可と恩恵ダブルで条件が満たされていないため、本来は誤用となる。
とはいっても。
仕事上で、実際にそこまで厳密に条件を守って使用している人はほぼ居ない(曲がりなりにも接客業経験のある筆者からしても)ため、言葉の先生や、マナー講師でもないなら、そこまでシビアに考える必要はない。
現実、もうちょっとカジュアルで、ざっくばらん(業種業態にもよるだろうけど)。
せいぜい「させていただきます」には、そういう使用条件が、本当はあるんだよー程度に覚えておくだけで問題ない。
謙譲語Ⅱがあるから当然、謙譲語Ⅰってのもあるけど、これは相手や第三者の人を立てて使う敬語表現だよ。
伺うや、差し上げるなんてのがそうだね。
Ⅱは相手だけに対して、Ⅰは「相手だけじゃなくて、別の人⦅目上の第三者⦆」にも使われるんだ。
たとえば「今から○○さんのところへ伺おうと思っています」っていえば良いのか……?
〇〇が目上の人間だとして。
(今回カエデの敬語まちがいから発展した話だから、テンション下がってるな)
それで良いはずだよ。
目の前の人じゃない、別の人(目上の人)に対して使っているからね。
「ガチャンぎり」もNGなほか……(固定電話の場合)
さっきの電話って向こうから掛けてきたんだもんね?
そうだが。
ふーん……。
それはそれとして、キミさ、最後に受話器を「ガチャン!」って切らなかった?
アレも、乱暴だよね。
そうなのか?
うん、傍目(はため)に見ても。
カエデが先に切ったっぽかったよね?
うむ。
そうか、乱暴だったか。
ま、今度からは出来るだけソッと受話器を置けば良いし、もしくは電話器のフックを指でそっと押すとかでも良いよ。
あと、自分からじゃなくて相手側から切るのを待つのが、一般的なマナーだよ。
身内や友達とかの間柄だったら、そこまで気にすることもないけど。
電話の切り方に一つにも気を配らねばならないとは……。
ま、ちゃんとしたいならね。
自分から掛けた場合、状況に応じて自分から切るのが正しい場合もある。その場合は「お忙しいところすみませんでした、では失礼します」など、一言そえるのがベター。先に切ることにどうしても抵抗があれば、やはり相手が切るのを待つ方が良い。
敬語だけではなく作法もまちがっていたワケか……。
シュン……。
(カエデを凹ますのをワリと楽しむボクは悪い子かも)
ってか、アレだけガチャンって鳴らしたら、多分相手の耳に残るだろうなー。
キーンって。
そこまで豪快な音だったか?
いや、照れんなって、べつに誉めてないし。
あと、ここまでは固定電話での話だったけど、基本スマホでも同じことだからね。
ただ、スマホは画面のタッチで通話終了するから、受話器を置く音なんて聞こえないんだけどさ。
でも切るタイミングは、固定電話の時と変わらないから「丁寧に接しよう」って気持ちをアタマの片隅にでも置いとけば、自然と相手を悪い気分にさせなくなるようにできるんだ。
気持ちってやつはさ、自分が気付かないだけで、意外と分かりやすーく行動とか声に反映されるんだよね、コレが。
「よろしかったでしょうか」もケースバイケース(余話)
筆者の仕事上での、敬語やらかし談をここで。
それは、お客さん宅へ電話をかけ終えた際のやり取りからはじまる。
筆者「これからお伺いしてもよろしかったでしょうか?……以下略」
電話終了。
同行の上司からすかさずツッコミ。
上司「……今の自分でおかしいと思わんかった?」
筆者「えっ? あの、なにかまちがっていたでしょうか……?」
上司「いや、でしょうかじゃなくて、おかしいと思わんところが、もうおかしいけどな」
筆者「あ、申し訳ありません……(その言い方、マジでやだなー……)」
上司「『よろしかったでしょうか』って変でしょ、どう聞いても」
筆者「(どこが変なん……?)あの、本来どういう風に言えば……?」
上司「今までどうやって電話してたんだよ……次から言葉の使い方気を付けて。それだけで機嫌悪くなる客も居るから」
筆者「……気を付けます(いや、正解教えてよ!?……自分で考えろってことかい?)」
終了。
昔の出来事につき、記憶をたどりつつ若干脚色を加えているが、さわりはこういう感じ。
そして筆者が知りたかった肝心の答えは「よろしかったでしょうか」ではなく「よろしいですか」もしく「よろしいでしょうか」である(その後、この言葉に言い換えてツッコまれることはなかった)。
よろしかったでしょうかはそもそも、相手に過去の確認を取るために使う言葉。
つまり現在・未来の物事に対しては不適切ということになるものの、シーンによってはケースバイケースとなり得る。
「よろしかったでしょうか」で調べると、使い方の正否を説明してるサイトって結構出てくるんだよね。
ちなみに飲食店の店員さんがいう言葉でさ。
「ご注文の品は以上でよろしかったでしょうか?」は「過去、自分がうけおった注文の確認」の意味で、用例にならうなら別にまちがいじゃないんだって。
なら「ご注文は以上でよろしいでしょうか」の方が、クドさもなく、響きも一般的っぽくて受け入れやすいが(人によるのだろうか)。
しかし今回私がツッコまれている話ゆえ、こういうことに発言権はないと思うが……。
まーいじけなさんな!
敬語のまちがいを気にしすぎるより、相手を不快にさせない気持ちを持つ方が正解だと思うよ。
まとめ
①相手から伝言を頼まれた時「お伝えさせていただきます」はNGで、本来は「申し伝えておきます」・「申し伝えます」が正解。なお「申す」は、敬語の一種・謙譲語であり、伝言を頼んだ相手をうやまっている形となる
②「お伝え~」は、伝言を頼む相手ではなく、伝言を伝える相手を立てているため誤用となる
③「させていただきます」も「相手の許可を得る」と「行うことで自分が何かしらの恩恵を授かる」の2つがどのくらい満たされているかによって適切か不適切かが変わってくる
※限定シーンでの敬語用法につき、ほかのシーンには当てはまらない可能性あり
ところでさ、さっき一体誰と会話してたの?
敬語の話に発展しちゃったけど、確かに伝言頼まれてたよね?
ああアレな。
……間違い電話だ。
はい?
ちょっとどういうこと?
ワケ分からないよ!
え? これで終わり?
ちょっと!! なんかスゲー気持ち悪いけど!
なんで間違い電話の相手の伝言引き受けちゃってんの!!
……たまにこういう不可思議な終わり方も新鮮で良いだろう?
誰も求めてないよ!
うわー! なんだ今回、ホント気持ちわりー!
了。
参考資料
「敬語おもしろ相談室」 文化庁 https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/index.html 参照日2024/12/26
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