筆が見当たらない……。
いつも同じ場所に置いていたはずだが……。
一体どこだ?
ん? 何か探してるの?
筆だ。
不思議なことにどこにも見当たらないんだ。
今回のお役目が終わったから、報告のための書をと思っていたところだったんだが。
そうだったんだ(お役目って一体何やってんだろ)。
じゃあ、一時的にこれでも使ってみる?
ん?
それはボールペンとかいうやつか。
そそ!
とりあえずね!
ひとまずそれで良いか。
すまない、しばし借りるぞ。
いえいえ……。
カエデはボールペンってフツーに言ったけど、それが略語ってことはさすがに気付かないか。
まあ、ほとんどの人はボールペンを正式名で呼ぶことはないだろうけど。
ボールペンの正式名
ボールポイントペンが正しい名称で、英語ではball(球)point(先端)pen(ペン)となる。
なおボールペンとは日本ならではの和製英語であり、アメリカなどでは「ボールポイントペン」という呼び名の方が正しいのだとか。
ただしボールポイントペンを短縮するようなニュアンスで「ボールペン」といっても通じることはあるらしい。
もっとも英語圏の方には、どちらが通じやすいかまではさすがに試したことがないので、そこまでは分からない。
実はかなり精密でデリケートな文房具
ねえねえ!
使い心地はどう?
思ったほど悪くはない、細字にはなってしまうが読めれば問題ないだろう。
墨を付ける手間がないのは大きな利点だと思ったな。
が、毛筆のほうが手になじんでいるから、やはり違和感はあるが。
そ、そっか、まあそうだよね(鉛筆の話の時もそんな話してたっけ)。
でも見当たらないんじゃしょうがないよね。
それに大勢の人が使いなれてる文房具だから、カエデにもこういうものを少しづつ使えるようになって欲しいなと思ってたんだ。
ありがとう、その気づかいには礼を言うぞ。
さっきも言ったが、墨が自動的に出てくるのは確かに便利だな。
仕組みはどうなっているのだ?
よくぞ聞いてくれました!
ボールペンって、けっこう精密に造られているんだよ。
書ける仕組みを簡単に言ってしまうと、ボール状のパーツが付いたペン先を紙に当てて、回転させることでインクをにじませて、字を書いているんだ!
ふむ、そう聞けばあっさりとしているが、その仕組みを造り出すまでは色々と思考したのだろうな。
かもね。
ちなみに一部のノック式(カチカチやるやつね)の油性ボールペンの中には、先の方にバネが入っていて、書く時には常にボールを押してるんだ。
ペンを使わない時にはそのバネで、先端をしっかりふさぐことでインクの※揮発(きはつ)を防止するんだよ。
長持ちさせるためのアイディアだね。
※揮発→常温で液体が気体になること
なるほどー!
まさしく工夫の結晶だな。
ただ精密に造られている分、使い方もある程度気を付けなきゃダメなんだよ。
先っぽで何かつついたり、落として強い衝撃がくわわったりすると、先端にキズがついてボールが回らなっちゃうこともあるんだ。
あとペン先から紙の繊維を巻き込んじゃったら、先が詰まってインクが出なくなることもあるみたいだね。
「あれ書けないぞ?」ってなったら、そういうのが原因の時もあるんだって。
そういうところは繊細なんだな。
だが、それを知ったら逆に壊さないよう慎重に扱おうとして、字を書くどころではないと思うが?
そこまで考えなくても良いと思うよ! 普通に使ってたらあまり起こらないことだし。
急に書けなくなるのってしばらくほったらかしてインクが揮発しちゃってたり、先っぽでインクが固まってたりすることが原因みたいだから。
それも試し書きすれば復活することも多いみたいだしね。
あまりほったらかしにしなければ大丈夫なんだな。
もしどうしても書けなくなっても買い替えれば良いし、手になじんだペンだったら替え芯だけ買うのもアリだよ。
もしくは消耗品と割り切って、予備として複数本入りの安いのを買っておくのがベターね。
じつは数千円以上する高級ペンもあるんだけど、それくらいなら贈答用に喜ばれるかもね(もったいなくて普段使い出来なさそうだけど)。
数千円! たかがボールペンにか?
たかがって言うな。
その値段レベルなら一生モノだろうし、こういうアイテムにお金を惜しまない人だって居るんだから。
それに数万円するものもあるみたいよ。
でもそういうのって実用性はもちろん、デザインも凝ってたり、プラチナでコーティングされてたり、一部に宝石が使われてたりの。
それ1本の値段で当分不自由なく暮らせるな……。
(自給自足でボンビーなカエデには、ショッキングな話だったかな)
ボールペンはいつ出来た
ここまで一般的に使われているみたいだが、出どころや初めて使われたのはいつ頃だろうな。
歴史の最初って意味なら1884年にアメリカの銀行員だったジョン・ラウドって人が世界初のボールペンを発明したらしいんだ。
1888年には特許も取得しているんだって。
でもこの時のペンはインクがもれてしまうこともあって、普通に使うことは出来なかったみたい。
ふむふむ、意外と近代な気がするな。
もっと古くからあると思っていたぞ。
それが1943年になってハンガリーのラディスラオ・ピロ(ビーロー・ラースロー)って人が、さらに実用性のあるペンの特許を取ったんだ。
じつは1938年にパリでも特許は取得済みだったんだけど、アルゼンチンに移住した後、再度特許を取ったって話だよ。
そのあたりでようやく実用に耐える形になってきたというワケか。
その人物は発明家かなにかなのか?
んーん、元々この人は新聞の文字チェックをする校正員の仕事をしていてさ。
新聞に使われていたインクがすぐ乾いてにじまないのを見て、そこからペンへの使用を思い付いたんだって。
んで化学者のジョージっていう弟さんと協力して、油性ボールペンの原型を造りあげたんだ。
自らの仕事からひらめきを得たというワケだな。
納得の理由だ。
だね。
そしてピロがペンを開発した2年後、日本にもボールペンが入ってきた。
1945年頃のことで、ちょうど第二次世界大戦が終わった年だよ。
つまりボールペンはアメリカの人らが日本に持ち込んだことで、広く知れ渡ったんだね。
今でいう口コミとかで広まったのかもしれないね。
削らなくては使えない鉛筆や、墨やインクをつど補充しなくてはならない万年筆や筆を使っていたと考えると、流行るのはうなずける話だ。
手間いらずなのだからな。
でも当初のものはインクや材質が悪くてまだ問題が多かったんだって。
品質が安定して日本中で使われるようになったのは1950年頃になってからだよ。
このあたりからボールペンが今のように使われるようになったんだ。
ようやく日の目を見たというところか。
たかが筆記用具とはいえ、さまざまな背景があるものだな。
そのあと1970年には水性ボールペン、1984年にはなめらかでにじまないゲルインクボールペンが発売されたんだ。
ゲルインクボールペンってラメが入ってキラキラしてるのもあるよね。
あんなのも発展型として生まれたんだ。
考案者の名前で通じることも
さっきのピロ、もしくビーローさんに関係ある話だけど。
彼の移住先のアルゼンチンやヨーロッパの一部で、ボールペンの呼び名がBiro(ビロ)で通じるみたい。
エジソン電球とかサンドイッチ伯爵のサンドイッチとか、作った人の名前が物の通称名になるっていう1つの例だね!
考案者への敬意のようなものが感じられる話だな!
まとめ
・ボールペンの正式名称はボールポイントペン
・先っぽに付いている球が書くときに転がることでインクが出てくる
・1943年、ハンガリーの新聞校正員ラディスラオ・ピロによって油性ボールペンの原型が完成した。日本では1950年あたりから実用的なものが広く使われるようになった
さて、コチョンどのがペンを貸してくれたおかげで報告書が完成したぞ。
後はなくした筆を探さなくてはな。
あれ? そこの影に落ちてるのって……。
筆あったよカエデ! もうー! 意外とわかりやすいところにあったじゃんか。
おお、助かったぞ!
しかし……さっきそこを探した時にはなかったんだが。
私としたことが見落としたか。
うんうん見落としだよ! カエデらしくないねえ。
(……今回の話のためにわざと筆を隠して、ボールペンを使わせたって言ったら、多分怒られるから言わないどこ……)
了。
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